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条約事務局ののちの発表では、枠組み条約の締約国一五五カ国の代表団、内外の報道関係者、NGO(非政府組織)、民間団体など参加者は合計九八五○人となり、日本で行われた最大規模の国際環境会議となった。
会議でその動きが注目されたのは米国だ。
そして、EU(欧州連合)、日本を加えた三極が交渉の中心になった。
数字は頻繁に変わるが、最終的には基準年比で日本六%減、米国七%減、EU八%減の削減目標を定めた。
発展途上国が義務を負うことは、強硬な反対に直面して断念された。
全二八条の議定書の中でのポイントは以下の通りだ。
一、二○○八,一二年を第一約束期間に定め、その間に数値目標までの先進国(議定書附属書1国U西側先進国と市場経済に移行しつつある旧社会主義国)の温室効果ガスの削減を義務づけた。
数値目標は各国ごとに異なる。
二、発展途上国とされた国は削減義務を負わない。
三、先進国が国外で対策を行い、または削減分を移転するなどして、自国の削減分に計上できる仕組み(京都メカニズム)を決めた。
四、森林などの吸収も数値目標の一部に当てることができる。
五、対象ガスは六種。
CO2、メタン、一酸化二窒素は九○年比での削減。
代替フロンとこの会議での各国の主張は国益をむき出しにしたものだった。
米国は当初の予想と異なり数値目標を受け入れ、京都議定書がまとまるきっかけを作った。
ただ、米国は国内措置だけで温室効果ガスを削減するつもりはなかった。
京都会議の中では「京都メカニズム」と呼ばれる他国との協力による削減手法を強く主張した。
このあとの米国政府の行動は、京都議定書の批准に対して消極的になった。
米国上院は京都会議前に「バード・ヘーゲル決議」を賛成九五票、反対ゼロの圧倒的多数で可決していた。
京都会議で途上国に規制が課されない場合、議定書が米国に深刻な経済的打撃を与える場合、議定書によって必要になる法令や規制措置のリストを政府が上院に提出しない場合、上院は議定書を批准しないとの内容の決議だ。
呼ばれる三種のガスは九○年、もしくは九五年比での削減を選択できる。
六、細則は今後の交渉に委ねる。
議定書の中心は各国の数値目標だ。
温室効果ガス、中でもCO2の排出に制限を設けたため、化石燃料の使用は限られることになった。
この議定書の決定を真剣に実施すれば、化石燃料を大量に消費する二○世紀型の文明に決別することになる。
各国の事情クリントン大統領は京都議定書に署名するが、批准手続きを上院に求めることはなかった。
政権側は議会や途上国の姿勢の変化を待ったようだ。
第一次世界大戦後に、ウィルソン大統領が提唱した国際連盟に対して上院が条約の批准を拒んだため、国際連盟に米国は参加しなかった。
政権側が手続きを求めたとしても同じことが起こったに違いない。
米国はブッシュ政権の下で、二○○一年三月二八日に京都議定書からの離脱を表明した。
議定書に問題点は多くある。
しかし、米国の主張を多く採用した取り決めを自ら壊そうとする行動は、道義的な批判を受けるべきだろう。
また、米国と協調して高めの数値目標を設定した日本は「はしごを外された」格好となった。
EUは数値目標の設定をリードした。
当初一五%の削減目標を提案、「EUバブル」と呼ばれる域内での一致した削減などを主張した。
ただ、これには「からくり」がある。
現在に至るまで英国は、石炭から、北海で採掘される天然ガスにエネルギー源をシフトさせる政策を行っている。
石炭よりも天然ガスのほうが燃焼時点でCO2の排出量は少ない。
また、ドイツはエネルギー効率の悪い東ドイツを合併した。
産業、運輸、民間の各部門で、老朽化した機器を新しいものに取り換えるだけでエネルギー効率は向上し、努力をせずにCO2の削減がしやすい状況にある。
二○○○年時点のCO2排出量は、英国で九○年比八五%、ドイツは同八○%と急減している。
また、エネルギー効率の悪い東欧圏へ、EUの領域が二○○五年に拡大する見込みだ。
九○年代に、東欧諸国は市場経済の波に飲み込まれて経済活動が停滞し、エネルギー消費が落ち込んだ。
九○年を基準年にすればEUは東欧の持つ余剰分のCO2排出量を自らのものにできる。
京都会議の事前交渉で、数値目標の比較を行う基準年を九○年にするか、九五年にするかで、議論が行われたとき、九○年にEU諸国が固執したのもこの理由だ。
EUは人類の未来のためだけに、温室効果ガスの削減の主張を行ったのではない。
日本政府筋は「EUは温暖化防止に熱心に取り組んでいるとの広報作戦が成功して、日本のNGO、マスコミはかなり影響を受けていたように思えます」と指摘する。
一方、各国の事情はさまざまだ。
オーストラリアは米国に追随して二○○一年に京都議定書を離脱する。
一方、ロシアはかなり緩い削減目標となったため、議定書への取り組みに突如前向きになった。
サウジアラビアなど石油輸出国機構(OEPC)諸国は議定書交渉に慎重だ。
温暖化対策は化石燃料の削減に結びつくためだ。
途上国側は交渉グループを作って抵抗した。
当初は七七カ国が集まり、中国と歩調を合わせたため、「中国およびG77」と呼ばれた。
二○○三年のCOP9段階では一○○ヵ国以上となった。
交渉姿勢は一貫している。
先進国の率先した約束の履行、数値目標の拒否、途上国への資金援助を求めている。
温暖化は先進国のこれまでの化石燃料の使用がもたらす根拠のない数値目標したものだ。
今から生活の豊かさを求めようとする途上国の人々が、エネルギー使用の制限を意味する数値目標を拒絶することも理解できる。
ブラジルの外交官はこのような言葉を京都会議の席上で語った。
「途上国にしてみれば、夕食会にあとから招かれて、コーヒーだけ飲んだのに、フルコースの代金を請求された気分です」(注一)。
また、温暖化による海面の上昇により、国土海没の危険があるモルジブなど小規模の島唄国は自国の生存権を訴えた。
だが、国際社会での力の小ささゆえに、その積極的姿勢は会議を大きくは動かさなかった。
ただ、各国には共通する点があった。
当時の代表団メンバーは「京都会議つぶしの犯人にはなりたくない、数値目標はできるだけ大きくしたいとの意向は共通していた」と語る。
これらからうかがえることは、京都議定書は理念の上では崇高なものを語っているが、現実には各国の国益を調整した合意文書にすぎないということだ。
みかけの削減目標を高くして世間体を繕いつつ、一方で抜け穴を拡大し、自国経済への負担を軽減しようという意図が各国に共通していた。
そして京都会議の最大の成果ともされる数値目標は根拠があって決まったものではない。
現在の大気濃度中のCO2は370ppmv(ppmvは体積を記す単位で、1ppmvは体積比で一○○万分の一)とされる。
一方、産業革命以前の水準は、280ppmv程度との推計だ。
仮に生態系への悪影響が懸念される550ppmvの水準で安定化させようとすると、二○五○年までに世界の温室効果ガス排出量を三分の一、三○○年までに三分の二減らす必要があると、IPCC(後述)は指摘している。
経済や社会の激変をもたらしかねないため、京都議定書はここまでの削減に踏み込めなかった。
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